「いまきみに」― 制作後記
いまきみに (Reach You Now)
// Silentroom as “少年R”
株式会社コナミアミューズメントの音楽ゲーム『SOUND VOLTEX』に
楽曲「いまきみに」を書き下ろさせていただきました。
2022年8月18日よりゲーム内で楽曲を解禁してプレイすることができます。
XHRONOXAPSULΞ(クロノカプセル)が、音ゲーマーとしての自分のはじまりから現在に至るまでを
振り返りながら作った作品なのに対して、
今回の作品では、音楽に対する自分のはじまりを振り返るようなテーマを楽曲の構想時に重ねました。
The 10th KAC大会で実装されたクロノカプセルのゲーム中演出では、
背景のミオンちゃんが示す時計のカウントが5, 4, 3, 2, 1と変わるにつれて
ゲームコンソールのバージョンも過去のものへと戻っていくアニメーションがありました。
そのカウントが、もしも「0」まで進んだとしたら。
その時に見える景色のイメージが、楽曲構想のきっかけになりました。
昔話になりますが、自分は3才くらいのごく幼いときからビデオゲームを遊んでいて、
ちょうどその物心ついたころに遊んでいた記憶のあるゲームの中には
KONAMI様のグラディウスIII(SFC)やDDR 2ndRemix(PS1)といった作品がありました。
特にグラディウスIIIの楽曲、メロディーのとりこになり、
こんな素敵なメロディーやコード、音色を奏でられたらうれしいだろうなあと
小学生のときはエレクトーン上で音を拾ったりグラディウス風の音色を探したりしていたのを覚えています。
あれから20年近い時間が流れ、また、自分が音楽活動を一旦休止することもあり、
休止前の最後に作る作品が偶然にもそのKONAMI様のゲームに提供できる楽曲となるならば……。
自分の音楽趣味の原点となった同社のゲーム音楽たちへの感謝と敬意をこめて、
今回の楽曲を作ろう!と思い立ちました。
記憶を抱いて 旅に出るなら
いまきみに 歌う!
そうして楽曲の制作がスタートしました。
今回、アイデア・テーマ自体が望郷的なものであまり激しい雰囲気ではなかったので、
SOUND VOLTEXのボス曲設定としては珍しく、激しい音色の連打は少し控えめにして、
細かい音を散りばめて音ゲー難曲としてのポテンシャルを確保しようという方向に舵を切り、
ジャンルとしては少しグラディウス的な風味のあるロック系シンセフュージョンを選択しました。
(イントロ3小節はSFCグラIIIのイントロBGMをリスペクトしています。)
クロノカプセルからシンセの旋律を一部引用しつつ、
ハ長調のピュアな明るさを全体を通して生かしてみました。
こういうサウンドは初めて作ってみたのですが、どうでしょうか。
2022年の自分が使うサウンドと、ずっと好きだったグラディウス系フュージョンの文法、
そしてそれに憧れてMIDIをポチポチと打ち込み始めた小学生のころの自分の書法。
昔の自分ならどうしただろう、かの先人ならばどうしただろうと、
全てを思い起こし想像しながら今一つの楽曲へと文脈を織り込んでゆく作業はとても楽しく、
自分にとっても特別な体験になりました。
アーティスト名義には「as “少年R”」(少年Rとして)という一句を添えました。
自分が小学生のときによく r からはじまるあだ名で呼ばれていたので、
インターネットでの音楽活動を始める前の自分の気持ちや筆致を思い出しながら書いたこの曲では
「一介のゲーム好きな少年だったあのころの気持ちとともに」という意でこんな名義にしてみました。
(尚、BEMANIシリーズには「少年」からはじまる偉大な楽曲やアーティスト名義がありますが、
何の関連もございませんのでご了承ください。)
♪ソドレミソードー ソレシドシーラソー…
と始まるサビのメロディが最初に思い浮かび、そこから作曲を膨らませていきました。
サビの旋律に載せて、心の中でずっと口ずさんでいた言葉があります。
きみの夢を ぼくが叶える
あの日のきみに 歌えるならば
願った日々に こころよ歌え!
春風吹けば 朝が来るから
この歌は いまきみに 届く
タイトルの「いまきみに」という言葉はここから来ています。
音楽を通し、幼い頃の自分と音楽の思い出にもう一度出会いたいという気持ちと、
楽曲をプレイしてくださる方に自分とコナミ音楽との思い出をおすそわけするような心地を込めています。
過去と現在が重なり合う心地で作ったサビのセクションが終わると、
楽曲の雰囲気がガラリと変わります。
ここでは、過去への回顧からもう一度前へと向き直り、
今度は未だ見ぬ未来へと相対していくイメージでこの終盤を用意しました。
過去より引き継いだメロディモチーフとともに、今のその先へと立ち向かう、
対照的なれど前向きなエネルギーを保ち続けているこの部分のことを
この楽曲に必要不可欠な表現だったように感じ、自分でもとても気に入っています。
あの日のぼくに 願うのならば
いまきみに…
SOUND VOLTEXは今年2022年で10周年を迎えましたが、
このゲームが稼働開始した2012年は、自分にとってインターネットでの音楽活動を始めた年でもあります。
10年前にどんな気持ちで音楽を聴いて音楽ゲームを遊んでいたのかな、
何を目指して音楽活動を始めたのかな、思えば遠いところまでやって来たな、と、
自分にとってパーソナルな想い、万感のすべてがこの楽曲に重なっています。
きっとこれからも音楽ゲームと音楽そのものの楽しさは、
音楽ゲーム自体を舞台としてどんどん次の世代へと継承されていくでしょう。
これを読んでいる2022年の今のあなたが、無垢に音楽・ゲームを楽しんでいた昔の自分に
何か言葉をかけてあげられるとしたら。
はたまた遠い未来のあなたが、2022年のあなたに何か伝えたいメッセージがあるとしたら……。
未来の形はいつも予想できませんが、
音楽とゲームの楽しさは過去も未来もずっと変わらず在りつづけ、これからもさらに広がると確信しています。
これらを愛するすべての人々に、これからも素敵な体験が続いていきますよう
再び願いをこめてこの楽曲を贈ります。
最後に、貴重な楽曲執筆の機会をご提供いただきましたSOUND VOLTEX 開発チームの皆様、
私の楽曲に触れてくださるすべての方々に改めて心より感謝申し上げます。
ありがとうございました。
(了)